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「覚えておけや相沢! 俺が大友だ、大友のかっちゃん! その名前、頭に叩き込んでおけや!」
止めとばかりに渾身の一撃を叩き込む。無言で吹き飛ぶ相沢。テーブルを薙ぎ倒し、のめり込むように床にへばりついた。ピクピクと痙攣して、口からは血混じりの泡を吹き出している。完全に意識が吹き飛んでいた。
「おいおい相沢、訊いてんのかよ?まさか気絶した訳じゃねーだろうな。弱すぎんだろ、まったく」
対する短髪の男、大友は益々調子づく始末。口元に笑みを浮かべて、勝利に、いや自分の強さに酔いしれるような表情だ。
「まさかてめーら、わざとやられたふりをしていたのか?」
それを見つめ、愕然と言い放つ永瀬。
「相沢は足を駆使して戦うタイプじゃと訊いておってな。しかも用心深くて、誰かとつるまなきゃ便所にも行けん性格。じゃから、これが最良の策だと思ってな」
淡々と響き渡る須藤の声。少しばかり大袈裟な言い方だが、相沢は確かに用心深い性格の持ち主。初見の敵とは戦わないし、相手の実力が上だと判断すれば武器にも頼る。時には逃げ出すこともある。裏を返せばそれも実力の内だ、戦争に於いてはそれこそが常套手段でもある。
「俺としちゃ、そんな手段を使わなくても相沢ごとき瞬殺する自信はあったんだけどよ」
しかし大友は大胆な様子だ。床に落ちているオシボリを拾い上げて、滴る血を拭う。ひどく矛盾した言い回しだが、おそらくはそれが本音だろう。チマチマと策に頼るタイプだとは思えない。
「成る程噂に違わぬ大馬鹿野郎だな」
永瀬が言った。
「だがここまでして、タダで済むと思ってんのか?」
カウンターに拳を打ち付けて、ゆっくりと歩みだす。
「済むだろ? ……いちいち先輩面してんじゃねーぞ永瀬。てめーら三年生は、俺らが成り上がる為の"こやし"に過ぎねーんだからよ」
しかし大友の態度は変わらない、口を尖らせ吐き捨てる。その足元には、相沢を始めとして多くの三年生が屈伏している。まだ意識があるが、大友を恐れて息を押し殺して見守るだけの者もいる。そこに最上級生、学園を仕切る覇者としての威厳は微塵も感じ取れない。
そのどれもこれも大友がひとりで叩き潰した。それ故の自信が成せる業だろう。
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