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朝の穏やかな光が差し込む教室内。ホームルームも終わって一息ついた時間帯。穏やかな空気が包み込んでいる。
その後部席には真田聖人がドンと座っていた。穏やかな空気などどこ吹く風、酷くムカついた表情だ。怒りの籠る視線を、一番手前の席に向けている。それには周りを取り囲む仲間達も不安気な表情。
「聖人訊いたか? 昨日の伊勢佐木町での話」
それに堪り兼ねたか天然パーマの男が言った。
「ああ、永瀬達のたまり場が襲撃された話だろ。その場にいた仲間共々潰されて、病院送りにされた件だな」
こくりと頷く真田。それは知っている、仮にも学園の覇権を狙う派閥の一員だから。
一方で細身の仲間はキョトンとした様子だ。『マジかよ?』と眼をしばつかせている。
それを横目で窺うパーマ。
「しかもその相手ってのが、一年のルーキー四人って話だぜ」
鈍感な細身などかまってられない。今は真田の興味を削ぐのが先決だから。
「らしいな。一気に踏み込んで、一気に叩き潰されたって」
興味を注ぐ真田だが、細身も『ホントかよ? 誰だよその四人の一年坊って』と食らいついた。
「しかし少しばかり計算違いだったな。俺達は元々一年生なんか眼中になかったから」
「だろ?」
「だから、誰なんだよそいつら?」
こうして三人の話題は、昨日の件に成り代わる。
「そうなの? 永瀬さんってここの支配者でしょ? ……政権交代ってことなの?」
その会話に傍らに座る女生徒が入ってくる。
「ミキ、そいつはお前の勘違いさ。永瀬は三年の一部しか仕切れなかった、ただの不良だよ」
それを真田はバッサリと切り捨てる。
「そもそもにして三年の大半は、あいつと連まないからな」
彼にとって永瀬はひとつ歳上の存在、一応は先輩と呼べる立場にある。だがそれだけだ、表面上その関係にあるだけ。
「そうなんだよ聖人。永瀬が負けたのは仕方なしとして、このまま一年坊をのさばらせるのはダメだよな」
これ見よがしに言い放つパーマ。真田の機嫌を損ねぬ意味もあるが、永瀬に対する信頼や尊敬の念は皆無だ。
「鳴神の奴が、ハッパかけるから」
しかしその細身の台詞で、場に再び激震が走った。
「あいつの話題はするな」
咄嗟に口走る真田。ぐっと拳を握り締めた、その眉間に深い縦ジワが刻まれる。
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