その男 吉沢蒼汰

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 その日の放課後、シュウはとある喫茶店にいた。その他のメンバーは、マリアと太助、それと“若井春菜(わかい はるな)”だ__ 「あはは、だよね。シュウ喧嘩っ早いから」  コーヒーをすすりながらヘラヘラ笑う太助。 「うるせー、こっちの意志にも関わらず奴らが襲ってくんだよ」  対するシュウは腕を組んでふてくされた様子だ。ルカの発言の余波は、しっかりとシュウにも飛び火していた。世間知らずなルーキー、孤高で執念深い武闘派、個性溢れるファン倶楽部の住人、更には学園抗争に無関係なチンピラや犬。それらの飛び火でゆっくりしてる暇もないほど。もちろんそれらを、シュウは(ことごと)く返り討ちに挙げていく。  そもそも彼からすれば全ては日常茶飯事。彼の背負った宿命の成せる業であろう__ 「ホント、男にはモテるよね」  しかしそんなシュウの思惑など太助が知る訳もない。口の周りを汚してケーキをほおばっている。まるで無邪気なお子様だ。 「ほら、太助。もうちょっとキレイに食べなさいよ」  流石にそれには春菜も苦笑する。バッグからハンカチを取り出して太助の口元を拭う。この彼女、こう見えて太助の彼女だ。  お調子者である太助に彼女がいるなんて、学園とすれば春の珍事にも等しい出来事である。流石にそれを知ったとき、他人の色恋沙汰には興味を示さぬシュウさえ愕然となった程だ。  しかしこれはこれでお似合いのカップル。春菜は大柄な体格とは違ってかなりのしっかり者だ。クラスは違うのだが、お調子者の太助をリードする保護者的存在。慣れてくれば当たり前な光景に感じる。
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