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猫屋兄の独壇場は続く。金髪を引き付け、ギリギリでかわして、攻撃を叩き込み、そして逃げる。それこそが彼の必勝パターン。元々リーチの長い彼が武器を持てば、相手を攻撃範囲にさえ浸入させない。攻撃こそ最大の防御というが、まさにそれを地でいく。戦に長けた戦士の面持ちがそこにはあった。
「それに比べてなんだよあいつ? 所詮空手はスポーツってか」
「決められたハコの中で、ルールに則り正々堂々だからな」
一方の金髪もBレベルに名を連ねていた。中学二年当時、神奈川県空手道選手権大会で準優勝した猛者を、一撃で沈めた経歴を持っている。
しかしその実力は発揮出来ずにいた。武器の長さを巧みに調整して攻撃を繰り出す猫屋兄の前に、成す術を持たない。ダメージばかりが蓄積されていた。
ムカつくのは猫屋の態度だ。攻撃する度にリングの奥に引っ込んで、挑発するように目を掻き開いたり舌なめずりしている。時折すぐ横にいる弟と聞こえるように会話する。『弱いニャ』『早く沈めろよ』その淡白な会話が、益々頭にくる。
「ふざけんじゃねーぞ!」
荒れ狂う獣のように突進を図る金髪。あの時のように悔しい思いはしたくない。掴むべきは勝利の二文字、そしてその先にある栄光……
瞼の裏でストロボのような閃光がひらめいた。鼻頭を強烈な痛みが貫き、後方に吹き飛ばされる。
掻き消えそうな意識。おぼろ気な視界に、拳を付きだし高笑いする猫屋兄の姿が映る。
このまま倒れるか、リングアウトすれば敗北は決定だ。やはり自分には、それ程の実力はないのだろうか……
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