胸騒ぎ

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 パパーーッ! 晴れた光景に、颯爽(さっそう)と電車が通過する。  朝の猛烈なラッシュを終えたその車内。それでも多くの人々で混み合いを見せている。 「お婆ちゃん、あと駅三つですから、我慢してね」  中年の主婦が言った。 「そうだね、ヨシコさん。……ただ腰が痛くてね」  それに傍らの老婆が答える。  車内は多くの客で満員になっている。それ故二人はうんざりと立ち尽くしていた。 「……お婆さん。ここの席、良かったら」  その時、目の前の少年が立ち上がった。恥ずかしそうに顔を赤らめて席を譲る。  はっとした様子の老婆。 「おやおや、気の利く坊やだねぇ」  ほっこりした気持ちが込み上げて、少年の頭を優しく撫でた。それで少年の顔が益々赤く染まる。かすかにはにかみ俯いた。 「それじゃ、座らせて貰おうかね」  顔をほころばせて、老婆はその席に腰を下ろす。頼もしい気分で溢れていた。 「しっかりした子ね。ひとりなの、どこまで行くの?」  中年の主婦が訊ねる。 「ママが入院してるから、隣街のお医者さんまで」 「へー、そうなんだ。ひとりでお使いなんて凄いわね」 「凄くないよ。ボクもう直ぐ弟が出来るんだもん。お兄ちゃんとして当然だよ」  胸を張る少年。 「そう、弟が生まれるのね。いいお兄ちゃんになりなさいね」  少年を成長させるのは、兄になる自覚だ。様々な出来事を体験して、少しずつ成長していく。こうして少年は、大人への階段を一歩ずつ登っていくのだ。 「この国の未来も、捨てたモンじゃないねー」  そんな漠然とした思いに駆られる老婆。その姿が眩しく感じた。 「……それに比べて」  虚しそうに視線を変えた。
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