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「がはは、そうだべよ。あそこのリカコちゃんは最高だったろ? 俺なんざ、店で会った瞬間からち〇こビンビンだったもんよ」
その和やかな様子を余所に、スマホ相手に話し込んでいる男がいた。派手なシャツ、ズボンに雪駄を履いたパンチパーマの男だ。
すぐ隣には赤いジャージに身を包む若者が寄り添っていた。
「なぁーに今に落としてやるよ。……ああ、ああ、あと一時間もすりゃあ着くだろうからよ、待っててくれや」
その態度はどう見ても素人とは思えない、明らかにヤクザだ。車内は多くの乗客で溢れているというのに、席をいくつも陣取って我が物顔にふるまっている。
「……電車の中なのに、大声だしやがって」
「シー、モーリー殿、あれはスジモノでシよ。聞こえたらどうするのでシ? ……シー」
一方その様子を横目で見つめ、ひそひそと囁きあう集団がある。それはカエルのキャラクターに身を包むモーリーだ。
その隣には仲間らしき小柄な男が座り込んでいた。着込むのは長袖デニムシャツとケミカルジーンズ。シャツのボタンは全てはめている。
「大丈夫ですよ。聞こえはしないから。……こんだけ離れてんですし」
堂々とした台詞とは裏腹に口調を下げるモーリー。
「だとしても、シー。口は災いの元でシぞ」
「……グワンさん、なにをさっきからシーシー言ってるんです?」
仲間の呼び名はグワンと言うらしい。
「シー? ……挨拶でシよ。人に出会ったら、ちゃんと頭を下げて、シー、挨拶するものでシ」
グワンは目の前を乗客が通り過ぎる度に、シーシー言って頭を下げている。礼儀正しいのだろうが、逆に乗客達は怪訝そうな様子だ。
「しっかしあいつら、どこまで一緒なんでしょうかね? ……誰かガツンと注意してくれればいいのに」
「シー、だったらモーリー殿が注意シればいいのでは?」
「俺がキレたら、他の人にも迷惑かけるでしょ?」
堂々と豪語するモーリーだが、その声は他には響かない。俯いて、もぞもぞ呟くだけだから。
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