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不意に黒髪の視線が運転手に注がれた。はっとなり視線を逸らす運転手。ヤンキーは苦手だった。特にこの辺の連中にはろくな噂を聞かない。彼も少し前まで、この辺の高校に通っていたから知っている。
だが黒髪は少しも動じない。アウディのウィンドウに映り込む自分を見て、飛び跳ねた後ろの癖毛を手で直している。アウディは真っ黒なスモークが施されている。外からだと中の様子は見えないのだろう。そう思ってため息をついた。よく見れば間抜けなツラだ。誰も見てないと思ってひとりで百面相している。
「シュウ」
だがその茶髪の声ではっとなる。
「ああ、ヤバイな」
そして振り返り言った。さっきまでと違う真剣な表情。運転手も何事かとバックミラーに視線をやる。
かすかに響き渡るエキゾースト。ひしめく車の陰から一台のバイクが現れる。白いボディに黒のツートンカラー。
『小僧共、今日こそお縄を頂戴しろ!』
スピーカー越しに響く甲高い叫び。神奈川県警第一交通機動隊の白バイだった。
「交機のおっさんだ。行くぞ一弥!」
黒髪が言った。
「応よ、シュウ!」
同時に茶髪がスロットルを全開にする。巧みなバイク捌きだ。白煙を挙げてウイリー状態に持ち上がった前輪を、体重を掛けて制御する。エンジン性能を全て出しきって、なに食わぬ顔で走り去る。
後方の黒髪も余裕の笑み。余裕過ぎて掴んだ手を放して『グギャ』と路面に転げ落ちる。
『しっかりしろ、シュウ』『クソ馬鹿一弥、急に発進すんな』ぶつくさいいながらも、追っ手を掻い潜り疾駆していく。
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