5116人が本棚に入れています
本棚に追加
/1495ページ
「……なにをしに来たって。俺は“英兄い”からジジイがヤバいって訊いて……」
「ほほぉー、“馬鹿息子”でも“父親”の心配はしてくれるのじゃのぉー」
葛城の思いも余所に、伸びたあご髭をさすり、満足そうに微笑む。
かなりの高齢を誇る文左衛門ではあるが、れっきとした葛城誠の父親だ。
「うるせー、クソジジイ!」
真っ赤に紅潮する葛城。
「……キャバクラの女を呼ぶ元気があるなら、さっさと退院しろ!」
吐き捨てて病室を後にした。
「ホッホッホ、流石は我が息子。口の悪さは天下一品じゃ」
満足気に高笑いを繰り出す文左衛門だが、周りを取り囲む男達は気が気では無かった。
「すんませんオヤジ。失礼します」
五十代程のオールバックの男が、慌てて退室していった。
「坊ちゃん!」
長い廊下の先、葛城の後ろ姿に呼び掛ける。
「英兄い。……坊ちゃんは止めろって!」
背中越しに声を荒げる葛城。
「……すんません……実子」
俯き加減に伝えるオールバック。
午後三時を過ぎた院内は入院中の患者や看護師の姿が見える。それらが何事かとばかりに視線を向けている。
「……くっ」
グッと天井を見据える葛城。拳を握り締めて呼吸を整える。
「……“英二”さん。親父の様態は?」
そして向き直り神妙な面持ちで訪ねた。
最初のコメントを投稿しよう!