その男 葛城誠

2/19
5116人が本棚に入れています
本棚に追加
/1495ページ
 それから数日が過ぎた__ 「合計金額、1023円になります」 「ビニール傘って幾らよ?」 「500円です」 「じゃあそれ。天気予報じゃ、また雨だってからな。まいるよな、この長梅雨には」 「そうですね夜中には降り出すらしいから」  この日もシュウは、コンビニでバイトをしていた。  店内は多くの客で賑わいを見せている。シュウとモーリーがその対応に追われていた。 「最近、忙しくなってきたな」  レジを打つモーリーが話し掛ける。 「まったくっすよ。……休む暇もない」  シュウも客相手にレジを打ちながら同意した。 「ま、稼げば稼ぐだけ“ミミちゃん”との憩いのひと時が満喫出来るけどよ」  不意にほくそ笑むモーリー。 「まだ、金を貢いでんすか」  シュウが呆れて吐き捨てた。ミミちゃんとはモーリーがぞっこんのメイド喫茶の女の名だ。 「俺はこの前、ミミちゃんの手を初めて握ったんだ。見てろよ、いつか必ず落として見せる」  輝かしい笑顔を見せるモーリー。それを冷ややかな視線で見つめるシュウ。悲しいことだが、ミミからすればモーリーはただの客だ。騙すつもりはないだろうが、いわゆる金づる。 「……それより見て見ろよ。“あの娘”また来てるぜ」  そんなシュウの思いも知らず、モーリーが雑誌コーナーに視線を向ける。  呼応してシュウも無言で視線を向けた。 「可愛い娘だよな。これで三日目だぜ? なにをする訳でもなく居続けて。あの娘、多分俺に話し掛けたいんだよ。ミミちゃんがいなけりゃ、やっちまうのにな」  自信満々に言い放つモーリーだが、その根拠はどこにもない。
/1495ページ

最初のコメントを投稿しよう!