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「なんだったんだあの連中」
その後ろ姿を愕然と眺める運転手。幸いなのは新車にキズを付けられなかったことか。
だがあの二人にとって問題はここからだ。勇んで飛び出たはいいが、その眼前に広がるのは壁のように連なる車の群れ。そのまま左折して、流れに乗る方法もあるだろう。だが二人にはその気はないようだ。ただ真っ直ぐを見て、そのままぶっ込んでいく。
「がはは、あの馬鹿共が」
白バイ隊員はアウディの側まで辿り着いていた。その下品な口調と、サングラスの下のひげ面には見覚えがある。工藤という自称交機のエース。だがそれは嘘っぱちだと誰もが知っている。本当はただのスピード狂にして取り締まりの亡者。
彼の母親が一時停止無視して、免許取り消しまで追い込まれたことを覚えている。思うに交機のジョーカーといったところか。出会っただけで最悪だ。
あの二人もそれを知っているから必死に逃げているのだろう。
「嘘だろ……」
「死ぬぞ……」
そんな二人の視線に信じられぬ光景が飛び込む。交差する右側の車線から、大きな物体が飛んでくるのだ。それは大型ダンプ。縁石に乗り上げたように、前輪タイヤがバーストしている。ブレーキを踏もうとそれは制御不能。真っ白い白煙と耳をつんざく響きと共に、その体躯を激しく揺さぶる。
「逃げろてめーら!」
工藤が叫ぶが、その勢いは衰えない。数台の車を巻き込んで、少年達目掛けて襲い掛かる。その距離わずか数センチ。
「ふざけんな!」
怒号が響いた。叫んだのは黒髪の少年。ダンプの後輪に右のキックをぶち込み、その態勢を整える。
あろうことか……いや偶然だろうが、ダンプの進行方向が変わった。激しい金属音を撒き散らし、対向車線に突入して大破した。
それにより道は開ける。ダンプが対向車線に突っ込んだせいで、対向車の侵入を防いだからだ。
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