壱の編 修羅ふたり

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 朝の光が射し込む廃屋、港湾沿いに建てられたその場所に先程の二人の姿があった。 「お前を後ろに乗せるとろくなことがないな」 「うるせー、生きてるだけ、ありがたいと思え」 「それは言えてる。工藤先輩は哀れだがな」 「俺様を怒らせた罰だ。鉄グズ抱いて永遠に寝とけ」  二人、背中合わせに立ち尽くしている。  目つきの鋭い黒髪は黒瀬修司(くろせ しゅうじ)、通称シュウ。  それよりやや背の高い茶髪は沖田一弥(おきた かずや)。共にオーク学園二年生だ。  工藤の追跡はなんとか(しの)いでいた。事故りそうになること数回、カーチェイスさながらの攻防を制してここまで辿り着いた。ちなみに交機の工藤はCBと共に壁に激突、全治数ヵ月は確定だろう。  辺りには機械油と埃の臭いが漂う。数十台のバイクが並べられていて大勢の男達の姿もある。その誰もがムカついた表情でシュウ達を取り囲んでいる。なかには苦痛に(あえ)ぎ、地面に倒れ込む者の姿もある。  この日この古びた工廃工場で、近隣を統べる武装チーム"ナイトオペラ"のリーダー襲名が行われようとしていた。シュウ達はそれを阻止すべく襲撃にきていた。 「沖田さんよ、これはいったいどういうつもりだ?」  立ち構える男のひとりが言った。背の高い細身の男。長い黒髪のサイドを刈り上げ、後方で結わえている。サングラスを掛けて、黒いタンクトップに革パン姿。  その後ろの棚には、刺繍(ししゅう)の施された黒い特攻服が飾られている。それを今から着込もうとしていたようだ。  この男こそが次期ナイトオペラリーダー。松田(まつだ)という悪党の世界では名の知れた男だ。
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