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伏せ目がちに、地面に転がる鉄パイプを蹴り払う一弥。
「その特攻服、引退の記念に貰っていくのを忘れててな」
「引退の記念だと?」
沖田一弥は数ヵ月前までナイトオペラのリーダーを務めていた。とある理由から、一時期引退していた。
「冗談はよしてくれ、あんたチームを抜けてんだぜ。昔はあんたのものだったかも知れないが、今じゃ俺のものなんだ」
「それがどうした。どうせお前には、その象徴は似合わないんだ」
飾られた特攻服は、一見どこにでもある古めかしいものに思えるが、彼らからすれば違う。
代々引き継がれてきたチームの象徴。暴走族と呼ばれた時代から、それに袖を通した者だけがリーダーと呼ばれてきた。そればかりは時代が違っても変わらない。
「お前はまだ、それに袖を通してないんだろう。だったら俺のものだ。お前にリーダーの座は相応しくない」
威風堂々と言い放つ一弥に対し松田は反論することもできない。
ガキのような言い分だが、それこそが絶対だ。袖を通していないということは、リーダーの座は空席ということ。
「そういう訳だから松田、さっさとその子汚い服、返せ。さっさと終わらすべ」
シュウが言った。『子汚いってお前』愕然となる一弥などお構い無しだ。
「なんだと?貴様魔王だよな。貴様とは初対面な筈」
訝しがる松田。シュウも不良の間では有名人。とにかく強くて、ケンカでは負けなし。ついた渾名は魔王シュウ、顔は知らずともその悪名だけは有名だ。
「うるせーな、てめーには関係ねーべ。言ってみれば神様のお告げだ」
そのうえわがままで大胆な性格。
「噂に違わぬ馬鹿だな」
流石の松田も呆れ顔。
そして続く沈黙。天井裏配管でネズミがちょろちょろ動く音だけが響く。
「このままおとなしく返せば穏便にすませてやる」
一弥が言った。
「冗談」
笑みを浮かべる松田。
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