その男 鳴神統

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 その淡白な態度が真田の怒りを頂点に押し上げた。 「てめー、今なんて言った? あんま調子に乗ってると、本気で殺すぞ!」  ルカの胸ぐらを奪い、興奮気味に右拳を振りかぶった。 「本気で思ったのさ!」  しかしルカの方が素早さで勝っていた。真田の顔面目掛けて一気に額を押し込んだ。  ゴリッ、という鈍い衝撃音が響き渡った。額が割れて、赤い血飛沫(ちしぶき)が弾け飛ぶ。 「真田!」 「てめー、よくも聖人を!」  響き渡る怒号。真田の仲間達がぐるりとルカを取り囲む。  ルカの頭突きは確実に真田の脳髄を揺らしていた。即座に意識が吹き飛び、膝から崩れ落ちる。 「このような雑魚が俺様に逆らうなど、それこそが勘違いではないか」  しかしルカはそれを許さない。グッと腕に力を籠めて、真田の身体を引き上げる。 「雑魚の分際であるにも拘わらず、俺様の顔を血で汚したんだ。その償いはしてもらうぞ」  抑揚ない台詞だ。静かに瞼を開き、真田を睨み付ける。それが仲間達を恐怖のドン底に突き落とした。  雪のように白くて端正な顔付きだ。それが所々返り血で赤く染められている。異様なのはその眼光の鋭さ。それが仲間達の意識に強烈に侵入していた。反撃する気力を殺がれて、成す術なく立ち尽くすだけだ。
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