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ルカのことだ。こうなるのを薄々と察してあんな行動をしたのだろう。男には容赦ないこいつも、女の前では紳士だから。それぐらいはシュウも理解している。それぐらい永い付き合いだから。
とはいえ今のルカのやり方には納得はいかなかった。この女、ルカが奪いたくなる程の女には見えない。敢えて真田を怒らせて、女の身柄を解放したまでは納得も出来る。だがそこまで回りくどいやり方をする真意が見えなかった。
一方で真優はその様子を愕然と見つめている。知らなかったとはいえ、勇んで反論したのを気恥ずかしく感じているようだ。
「真優さんの仰る通りですよ。身体だけじゃなく心も伴わなければ。……ただ、あの方もそれを理解していただけ」
その真優にマリアが言った。それではっとする真優。
「もしかしてマリアちゃん、それを知っていたとか?」
「なんとなくです。だってナギサさん、聖人さんと一緒にいてもつまらなそうだったから」
こうして神妙な面持ちで会話する二人を、ルカはじっと見つめている。
「成る程。見た目だけではなく、心まで澄んでいるようだな」
言って静かに歩み寄る。マリアはキョトンとした様子だ。呆然とルカの表情を見つめている。
「この荒野に咲くには場違いな、可憐なる花ではないか」
そしてそれで流石のシュウもようやく気付いた。今までの全てはフェイクだ。マリアを見定め、近寄る為の演出。
「マリア、そいつの話なんか訊くんじゃねーぞ」
堪らず言い放つシュウ。
ルカとマリアの接近は、シュウでなくとも驚愕な光景だった。辺りに少しずつだが狂気が漂い始める。耳をすませば聞こえてくる、ぶつぶつという呪いにも似た声。それは正統派ヤンキーの醸し出すそれとは完全に別物。それはズバリ、ファン倶楽部の面々が放つ狂気。想像以上に醜悪な覇気も含まれている。
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