Ⅰ.車輪の唄

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まだ、太陽は昇っておらず辺りは暗闇。 往来には人影も無く、虫の音も聞こえない。 世界は完全な無音に包まれている、ように見えた。 「…………眠いな」 暗闇を切り裂いて聞こえてきたのは、一人の少年の欠伸混じりの声。 「…………やっぱ早起きなんてするもんじゃねえな。……そうも言ってらんねえけど」 閑静な住宅街の一角にある一軒家の前で、置いてある自転車に寄り掛かりながら携帯で時間を確認した少年がそう呟くと同時に、一軒家の玄関が開き少年の待ち人が姿を現した。 「……来てくれたんだね」 一軒家から姿を見せた少女は、待っていた少年に向けてそう声を掛けた。 「……当たり前だろうが。有言実行が俺のモットーだ」 少年は自転車のスタンドを地面から外し、少女に声を掛けた。 「それじゃあ行きますか、お嬢様。今日の朝限定の運転手として無事に駅までお届けしますよ」 芝居がかった口調でそう言った少年の言葉に、少女は笑顔で応えた。
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