Ⅰ.車輪の唄

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「……本当に怖いのは望だと思うのは俺だけかな?つーか、赤くなってないよな?」 そう呟きながら髪を上げて額を俺に見せてくる夏生と、その少し赤くなった部分に全力でデコピンする俺。そして、悶絶する夏生を見て笑う梓。 夏生が俺に弄られて、梓がそれを見て笑う。代わり映えの無い穏やかな日常。 こんな日々が、少なくとも後二年弱続くとなると流石にうんざりする気持ちもあるが、それでも笑みが零れるのは何故だろう? ……馬鹿馬鹿しい。答えは俺が一番理解しているだろうに。 詰まるところ俺は楽しみ、満足しているのだ。 他の誰よりも、この日常を。 「……春休みは何して遊ぶかな」 自然とこぼれた音の波は、誰の耳にも入る事なく大気に霧散されていく。 「じゃあな、お二人さん。…………悔いのない春休みを」 いつもの交差点で夏生は背中越しに手を振りながら俺達と別れた。 夏生は右に、俺達は左へと。 去り際の言葉が、何故か無性に耳に残った。
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