譜の扉

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唄が聞こえる。 その奏でる旋律は、まるで揺りかごに揺られたように心地よい。 心地よいのだが、その唄に込められた感情は皆無。 嬉しい、悲しい、苦しい、憎い、楽しいなどの感情がまったく込められていない。 なのに、唄は心地よく眠りが誘う。 唄を歌っているのは少女だ。幼い身体からみて、まだ、10代半ばかもしれない。 少女は、眉ひとつ変えず、ひたすら公共の場面に歌っている。 道行く人々も彼女の唄を聞く為、立ち止まって見ている。 まるで、その唄が流れている間だけ時間が止まったように見える。 唄は止み、彼女はお辞儀をして箱の中へと帰って行く。時は再び動き出す。 ああ…眠たい、お腹もすいた。 再び、私は彼女が帰った箱を見ると午後12時と書かれたデジタル時計が写し出されていた。 さて、休憩でもするか。
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