~運命に抗う青年~

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~運命に抗う青年~

まるで、空が泣いているかのように降りしきる雨が大地を叩き、大地に息ずく全てのものを濡らしていた。 辺り一面には生臭い人の焼けた匂いが立ち込めていて酷く鼻を刺激し、かろうじて形を保っていた黒く焼けた木造の家が遂に、派手な音を立てて崩れた。 「どうして…こんな…」 そんな辺り一面黒に染まった場所にただ一人青年が立ちつくしていた。 青みかかった黒髪に優しそうな顔立ち。青いシャツは雨に濡れて少し黒ずみ、茶色のカーゴパンツや黒のブーツはビタビタだった。 いかにも、農民の出で立ちをした彼の腰のベルトには鞘ごと吊るされた1振りの剣があり、柄に天使の翼を模姿し、中央には紫色のレンズが入った高そうな剣が吊されていた。 (ひどいな……) どこかで男の声がした。誰もいないはずの場所に響く低く冷たい感じの声。 「……母さん!!」 青年はガクリと両膝を地面に付き、顔を上に向けた。 闇に包まれた暗黒の空から無慈悲に振るのは雨だけ。そんな雨雲を見上げる青年の頬を伝うのも雨なのだろうか。 これは僅か数時間前の話。 「ユータ!ほら!村の外は危ないんだからちゃんと、レザーアーマー着て行きなさい!」 「わかったよ。母さん」 ある場所に農業が盛んな小さな村があった。 都会では、不思議な力を持つレンズの恩給を受けて人々は豊かな暮らしを送っていた、この辺りはそれに比べれば風車や畑のあるのどかな村だった。 そんな小さな村の、隅にある家から飛び出してきたのは青みかかった黒い髪。レザーアーマーを身につけた華奢な青年。顔つきはとても優しそうだが、農業に携わっているためか体つきは割りと引き締まっている。 「昼には帰ってくるのよ」 「うん!わかった」 心配そうに見送る母に返事を返し、駆け出した青年は一度も振り返らずに森へと消えて行った。 これが…母を見る最後になるとは知らずに…
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