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千駿「えーと、確か…“ムカイ”です、よね?」
俺の答えに、鹿嶋先生は満足そうに頷く。
鹿嶋「その通りだ、里見。
人鬼大戦の前、角無しの鬼は他の鬼と違って、特殊な力を何一つ持たないと思われていた。それ故に、他の鬼から迫害されていたんだ。
だが、このムカイは角無しが持つ特殊な力を見つけ出した。それが“鬼人化”だ」
先生が、黒板に図を描く。
鹿嶋「鬼人化と言うのは、解り易く言うなら契りを結んだ人間と、鬼自身を完全に同化させる事だ。
この状態でのみ、角無しの鬼は特殊な能力を使用する事ができ、その力は一角の鬼さえも凌駕する。
ただ、角無しがこの人鬼大戦で圧勝したのかと言えば、そうではない。一つだけ問題があったんだ。
天王寺、解るか?」
今度は、綾音が指名される。
綾音は少し考えると、自信ありげに言いきった。
綾音「数ですね?」
綾音の答えに、先生は満足そうに頷く。
鹿嶋「その通り、数だ。
鬼人と角有りの鬼の間には、圧倒的な数の差があった。
元々、角無しはそんなに多くはいない事に加えて、契りを結び鬼人になれる素質を持つ人間が、また少なかったんだ」
先生がまた、黒板に図を描く。
しかし先生、絵が下手だなぁ。
鹿嶋「例えば、素質のない人間が、契りを結んだとする。ここまではまったく問題がないんだ。
その後、いざ鬼人化しようとすると、問題が起きる。素質のある人間なら、鬼甲を纏い、鬼人となるんだが、素質がない人間がこれをやると、大変な事になる」
先生が一度言葉を切る。
鹿嶋「…暴走だ」
鹿嶋「鬼人と成るには、特殊な才能がいる。
なんせ、自分の体が、自分の物のまま自分のモノでなくなるんだ。並大抵の人間なら、そんな事には耐えられない。
加えて、初めて鬼人化する時に限り、通常の人間には存在しない、鬼の特殊能力を使える様にするために、脳の一部が組み替えられる」
―想像する。
頭では、自分の身体だと認識しているのに、それが、自分の知っているそれと、全く違うという事を。
何より、意識のあるまま、何者かが自分の脳を弄るという事を。
千駿「うぇぇぇっ…」
それは、出来の悪い三流スプラッタ映画の方がよっぽどマシな光景だった。
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