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『ふぅ~……』
気を落ち着かせるために、まずは大きくひとつ、深呼吸をつく。
そして、意を決して口を開いた。
『あ、あなたは一体誰なの?私に何の用?!』
相手に気取られないようにと、なるべく平静を装って言ったつもりだったのだが、声が震えていたのは、誰の耳にも明らかだった。
『…何って。そんなの、わざわざ言わなくたって分かってるんだろう?美夢』
クスリと、笑いを含んだ男の声が答えた。
『えっっ?』
私が聞き違えるはずがない。
耳に心地よい、甘く響くバリトン。
優しさと哀しさを、同時に含んだ深い声。
『美夢』
あの日からずっと、またこんな風に名前を呼んでくれる瞬間を、待ち続けてきた。
でもそれは所詮、叶わない夢だと言うことも、重々知っていた。
『美夢』
なら、この声は一体、誰の物だと言うのだろう?
ううん、きっとそう。
世界中探したって、こんなにも私の心を震わせる声の持ち主は、一人しかいない。
『美夢?』
『先生!!先生なのね?!……っっ会いたかったっっ』
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