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何か気の利いたことを言わなくちゃと、焦れば焦るほど頭が真っ白になり、さっきから先生の会話に、相槌を打つことしか出来ずにいた。
先生がしっかりと、相手の目を見据えて話をする人だったので、私はと言えば目が合う度に、息が止まる思いだったのだ。
そんな余裕のない自分を、少しでも悟られまいとして―もうとっくに気付かれていたような気もするが―私は始終うつむいてばかりいた。
それでも、隣り合った肩が熱くなるような錯覚にとらわれて、どうにも我慢出来ずに、横目でちらりと先生を見やった。
ふと視線の先に―先生の肩に―私の髪が落ちているのに気付く。
『あ、先生ごめんなさい。あの…私の髪が……』
『え?髪?…あぁ本当だ』
先生は、その髪を払わずに指でつまんだ。
長さはゆうに1m30㎝は超えていた。
『しっかし芹澤、髪長いなぁ。そーいやこんな風に、髪の長いお姫様の出てくる話あったよな。う~…ん、何だっけ』
私は何も答えなかった。
もちろん、それが何と言う名前の童話なのか、一童話作家の娘として、知ってはいたけれど、自分で言ってしまうのは少し、気が引けたのだ。
『あ、思い出した!確か、“ラプンツェル”じゃなかったっけ?お姫様なんて、芹澤にぴったりだ』
そう言って先生が、あんまり無邪気に笑うから、暗がりの中でさえ眩しく感じて、思わず顔をそらしてしまった。
(そんなこと言われたら、期待しちゃうんだから)
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