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教室に着くと、ドアを開けたとたん、冷たい風が、まるで刃が切り付けてくるかのように、いきおいよく吹き付けてきた。
『きゃあっ』
『何だ?』
電気を付ければ、教室が乱雑に散らかっているのが、一瞬で見て取れた。
カーテンはばさばさと風にはためき、黒板に、マグネットで掲示されていたはずのプリントは、好き勝手に床に散らばっていた。
『おいおいおい…窓ぐらい閉めて帰ろうよ』
そう言って先生が、窓際に歩み寄って行くのを確認して、私はおもむろにプリントを拾い始めた。
会話が途絶える。
私は黙々と、腕に抱えたプリントの束を、一枚一枚黒板に貼り直し、先生もまた、黙って開け放されていた窓を閉めていた。
夜の帳の降りた空には、大気のゆらぎにまたたく金の星が、ひっきりなしにこちらにウインクを繰り返していた。
髪が風に踊る。
沈黙に胸の鼓動が高鳴る。
明かりが……消えた。
『先生…?』
驚いて立ち上がると、暗闇に、まだ目の慣れない瞳をしばたかせ、あたりを見渡した。
すると突然、後ろから腕を回されたではないか。
ふわりと香るのは、あの煙ったい匂いだ。
『せ、先生?!』
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