6人が本棚に入れています
本棚に追加
閉じていた目を開けると、驚いたような先生の顔があった。
その頃になってやっと、自分がしたことの事の重大さに気付き、あわてて体を離した。
『ごっごめんなさ…っっ』
羞恥心から思わず逃げ出そうとした私の腕を、先生はきつく掴んだ。
『いいよ』
『え?』
『キスして、いいよ…』
さっきよりもっと、強い力で抱き寄せられれば、あの甘い香りがむせ返るように押し寄せてきて、あらゆる神経を麻痺させる。
先生の腕の中で、私の体はすっかり自由を奪われていた。
(…あぁ私、私は、ずっと昔からこの匂いを、知っている気がするの…)
晩秋の夜の、冷えきった空気の中、私の体だけは、すべてを焼き焦がす真夏の太陽のようにほてっていた。
猫の爪ほどの細い三日月が、窓越しに見えたのを最後に、記憶は途切れる。
そのまま私たちは、床に倒れ込んだ。
あの甘い香りが、電気信号のように体中を駆け巡れば、もう何も考えることなど出来なくなっていた。
―そう、まるで、死へと誘う甘美なる毒―
最初のコメントを投稿しよう!