星月夜に君を想うこと

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遠く、寄せては返す波の音が聞こえた。 あと数時間もすれば、向こうの空が白みはじめるのだろう。 それらは宇宙の秩序に乗っ取った、規則正しい物理法則なのだ。 ビックバンのはじまりからずっと、繰り返されてきた運動なのだ。 私は、東から西へと運行する、幾千億の恒星と、その間で迷える無数の惑星に、回転する渦巻状の銀河の形を思った。 …そう、人一人死のうが、お構いなしに明日はやってくる。 私には先生が、世界のすべてだったのに。 世界の側は違ったのだ。 体にまとわりついていた、ちっぽけな害虫が一匹、いなくなったくらいの些細な出来事にすぎないのだ。 この世界にとって、先生という人間が欠けてしまったことは。 今日も、相変わらず朝が来れば陽は昇る。 それが正しい、宇宙のあるべき姿だとでも言わんばかりに。 一寸の狂いもなく、正確に。 私だけが全宇宙から取り残されて、戻ることも進むことも出来ずに、一人立ち止まり続けてる。 夜は長い。 一人きりでいると、そんなことばかり考えてしまうから困る。 そして、そんな時には決まって、言い知れぬ不安と孤独が、発作のように襲ってくるのだ。 残念ながら対処法はない。 『大丈夫だよ』と言って、優しく抱きしめてくれる人などもういないから、私は自分で自分を抱きしめるように、体ごと腕を抱え込んだ。
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