眠れぬ夜に連れ出して

3/3
前へ
/25ページ
次へ
『ふぅ~……』 気を落ち着かせるために、まずは大きくひとつ、深呼吸をつく。 そして、意を決して口を開いた。 『あ、あなたは一体誰なの?私に何の用?!』 相手に気取られないようにと、なるべく平静を装って言ったつもりだったのだが、声が震えていたのは、誰の耳にも明らかだった。 『…何って。そんなの、わざわざ言わなくたって分かってるんだろう?美夢』 クスリと、笑いを含んだ男の声が答えた。 『えっっ?』 私が聞き違えるはずがない。 耳に心地よい、甘く響くバリトン。 優しさと哀しさを、同時に含んだ深い声。 『美夢』 あの日からずっと、またこんな風に名前を呼んでくれる瞬間を、待ち続けてきた。 でもそれは所詮、叶わない夢だと言うことも、重々知っていた。 『美夢』 なら、この声は一体、誰の物だと言うのだろう? ううん、きっとそう。 世界中探したって、こんなにも私の心を震わせる声の持ち主は、一人しかいない。 『美夢?』 『先生!!先生なのね?!……っっ会いたかったっっ』
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加