プロローグ

4/4
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
夜になり、世界に静けさが訪れる度に、激しく彼女を襲う孤独は、眠ることを許してはくれなかった。 (空っぽのベッド) (薄れていく匂い) (霞む記憶) 夜の間中、百回寝返りを打ち、千回ため息をついて、一万粒の涙をながしても、とうとう一時の休息をとることさえ叶わずに、無情にも空は白み始める。 あれからずっと、そんな日々を繰り返してきた。 夢でくらい、愛しい人に会えたなら、彼女の傷付き、衰弱した心もまた、どんなにか救われたことだろう。 しかし、胸を裂くような寂漠と慟哭は、激しく痛みを伴い、追々寝かせてなどくれなかった。 …そうして彼女は今夜も、夜が明け、東の空に陽が昇るのを待っているのだ。 『会いたい…っっ今すぐ会いたいよ、先生……っっ』 長い夜を一人きり。ただひたすらに、それだけを星に願って。 傍らには彼の残した天体望遠鏡。 レンズから垣間見る、星々の密やかな囁きだけが、彼女の哀しみを分かっていてくれた。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!