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長い髪が強風に煽られ、視界を覆い隠す。
ふと思い立ち、ポケットからリボンを取り出して、地面すれすれまでのびた栗色の髪を、邪魔にならないようにひとつにまとめる。
(のびたなぁ、髪)
本当はそろそろ切りたいところなのだけれど、先生が好きだと言ってくれたロングヘアだから、なかなか決心がつかずに、出会った日からずっとのばしっぱなしだ。
『芹澤、髪なっがいなぁ。そーいやこんな風に髪の長いお姫様の出てくる話あったよな。う~…ん、何だっけ』
『ラプンツェル、です。先生…』
遠い記憶の中で笑う、その人に返した言葉は、音になる間もなく風に掻き消されてしまった。
今でも先生にはじめて話しかけられた日のことは、昨日のことのように思い出せる。
入学早々、すでに生徒たちの間で絶大な人気をほこっていた新任の数学教師。
それもそのはず。女子高では、ただでさえ若い男の先生は、もてはやされるのが常なのに、あの人はそれに輪をかけて、芸能人も真っ青なルックスの持ち主だった。
眼鏡の向こうから覗く切れ長の涼しげな瞳。
やや長めのさらさらの黒髪。
スーツに身を包んだすらりとした体躯。
一体、あの容姿に心奪われた生徒が何人いたことか。
『そして私も、ほかのその他大勢の女の子たちと同じように、先生を追いかけていたんだわ』
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