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先生にほめてもらいたくて、授業を受け持ってもらっているわけでもないのに、苦手な数学を一生懸命勉強した。
先生とほかの女の子が仲良く談笑しているのを見て、勝手に焼きもちを妬いていた。
朝、先生が本を読んでいるのを見かけて、タイトルを覚えて昼休みに、図書室まで走ったこともあった。
…でも、それだけ。
引っ込み思案な性格が災いして、それ以上のことは何も出来なかった。
自分でも、そんなことしていたって何も始まらないことは重々承知していたけれど、これでいいんだって、半分あきらめていたのだ。
もしかしたら、学校の3の1の生徒が先生のことを好きかも知れないという、超高倍率の状況の中で、まだ中学生の垢抜けない、先生からしたら全然子供の私が選ばれるわけがない……
そうやって最初から、戦線離脱していた。
でもあの日。
友達に、どうしても抜けられない用事があるからと、外掃除の当番を頼まれたあの日。
私は今までの臆病な自分に、さよならすることを決意した。
冷気に涙のにじむ目をそっと閉じれば、吹きすさぶ風の音はあの日の木枯らしに変わる。
まぶたの裏の暗闇に浮かぶのは、放課後の学校だ。
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