九月二十一日 10 覚醒

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「明美さんは奈緒美さんを見つけられたのかな……」 天井を見上げ、蜘蛛を警戒しながら友永は呟いていた。 丁度エレベーターの前辺りまで来たところで102号室から戻って来た明美と合流した。 「友永君?」 「明美さん、部屋には居なかったみたいですね」 「えぇ、そっちは?」 「それが……冷蔵庫の向こう側には行けなかった」 「行けなかった?」 「何かがいた……奈緒美さんではない何かが……」 友永がそう言いながらエレベーターの扉にもたれかかろうとした時、スーッと扉が開いた。 寄り掛かる筈のものがなくなり、バランスを崩した友永はよたつきながらエレベーターの枠にしがみついた。 体制を整えた友永はエレベーター内を見つめて呟いた。 「……あんた……誰だ?」 友永が見たものは……一人の男がエレベーター内に立ち尽くしていた。 足元には幼い女の子が力無く座り込み、うなだれている。 立ち尽くしている男はその子の髪を握り締めていた。 「友永君、逃げて!!」 明美は叫び、友永の手を握って走り出した。 『なんや……失礼やなぁ……逃げるなよ』 ゆっくりと男はエレベーターから出てくると、明美達が走り去った方へと歩き出した。
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