九月二十一日 10 覚醒

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風呂の浴槽には奈緒美が蹲っていた。 「奈緒美さんなの!?」 明美も風呂の扉へと歩み寄った時、友永の苦痛の声と嫌な音が耳に飛び込んできた。 「あ……何でだよ……奈緒美……さん」 友永の腹から大量の血が滴り落ちていた。 奈緒美が調理場から持って来たと思われる包丁で友永の腹を切り裂いたのだ。 「私は騙されない……私は騙されない……私は騙されない」 奈緒美はブツブツと呟きながら立ち上がると倒れ込んだ友永を見下ろしている。 「と……友永さん!」 明美は立ち尽くしていた。 友永は出血で意識が遠のくなかで奈緒美を見つめていた。 友永の視界には包丁を振り上げている奈緒美の姿の後、迫り来る包丁…… 友永は息絶えた。 とどめをさすかの様に顔面に包丁を突き立てられたのだ。 ズシュッと音を立てながら引き抜かれた包丁を見詰める奈緒美の目は赤くはなっていなかった。
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