幸せは契約の果てに

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そうしたまま、幾分か後。穏やかな、月音の寝息が聞こえ……涼夜は思わず、呟いた。咽の奥から絞り出したような、血を吐くような呻きにも似た声で。 「クソッ……なんでだよ……!」 何故だ。どうしてだ。どうして月音が、病気で苦しまねばならない? 思い、吐き気を抱く。なんて身勝手。なんて我儘。病気に苦しむ人間など幾らでも居よう。月音だけではない。 ……だが。だが、それでも思う。 月音を助けたいと、救いたいと、護りたいと。 月音さえ無事なら、他は何も要らない。 月音さえ無事なら、他の誰が苦しもうと関係ない。 理不尽なエゴだと、駄々っ子のような愚考だと分かっていながら、しかしそれでも、思う。 月音を……救いたいと。ただそれだけを、強く、強く、強く! その為ならば神に祈ろう。他人に縋ろう。悪魔に魂を売り渡そう。 その決意、その意志に応えたのは、無辜なる民の願いを聞く神ではなく。 利害の一致で願いを叶える他人でもなく。 ――幸か不幸か。応えたのは、悪魔。 契約に従い願いを叶える、賢しい悪魔に他ならなかった――……
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