始まりはいつも突然に

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「え?」 社長は目を見開いて驚いている。 その気持ちはわからないでもない、つーかわかりすぎるくらいわかるが、緊急事態なので置いとく事にしよう。 もう一回、犯人を求めて紙を見る。目星はついてるが。 ……俺の欄(本来俺が書く所)には、見たことのありそうな文字が入っている。 が、筆記鑑定の職業の予定がない俺にはわからない。それこそわかるのは母の丸字ぐらいである。 「いや、でも名前がひらがな――」 「母は、漢字を覚えようとしないんです」 しつこく追求する社長に、俺は告げる。 「…………はい?」 「『ひらがなだけでいぃんだよ』ですって。おかげでこっちは、保護者が必要なサインは全部自分で書いてましたから」 最初に母の文字を担任に見せた時の哀れみの視線は、まだ忘れられない。あれは絶対、俺が書いたって思っていただろう。 「あの、それで仕返しに書きたかったんじゃないかしら……」 「…………………………ナイデスヨ、ソレハ」 ……あるかもしれない。 めちゃくちゃあると思うのだが、さすがにそこを認めたら何かに負けた気がした。
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