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砦を一気に陥落させないのはだだ単に絶望し、苦しむ様を見るためだろう。惨たらしいことを好む魔精らしいやり方である。
守備隊長に戦況を聞いた後砦の屋上に登ると、
「ベリアルー出てこーい!!」
アリスが叫んでいた。よりにもよって厄介な奴の名を。
「ええええええ!! お前何やってんの!!」
予想外の状況に、柄にもなく驚いてしまう俺。
「暇だから、悪魔を名乗る不届き者を見ておこうと思ってね」
数十分単位で意見が変わる気まぐれなアリス。前任者もさぞ苦労しただろう。
その時、振り返ったアリスの後ろから高速で接近する物体があった。
俺は腰に下げた鞘からグラムを抜き、その勢いで横切りを放つ。
両者の距離は20メートル程度。だが俺の力にその程度の間合いはないに等しい。
中空で炸裂音が響く。それは突進を止め、中空に静止した。
噂をすれば(というか呼んだのだが)蝙蝠のような羽根を広げて目の前に浮かんでいる奴を俺は睨みつける。
「よう、ベリアル。この前つけた傷は癒えたのか?」
奴は牛頭の巨漢だ。両側頭にねじれた角が生え人の体ほどの腕が4本、その体躯は3メートルを越す。
俺は皮肉を込めて言ったのだが、
「えぇ~っ、討ち漏らしたの~、情けないわね」
空気の読めない、アリスの辛辣な言葉が俺の心にグサリと突き刺さる。
「暴圧の大気(アトモスフィア)と呼ばれる貴様がここにいるとはな。だがお前に用はない」
牛頭の魔人が唸る。それは以前腕をすべてもがれ、尻尾を巻いて逃げ出した奴の台詞とは思えなかった。外見通り脳は牛並みなのだろか。
「あら、私が気になるの? ごめんね~あなたタイプじゃないわ」
ベリアルの視線に気づいたアリスは的外れなことをいう。
「ふん、年増のババアに興味はない。重要なのはお前を倒せば魔聖十二天の地位が手に入ることだ」
「ばっ、ババアって言いやがった!? こんなに美しくて可愛いのにー!!」
アリスは俺の袖を引いて同意を求めるが、俺は無視した。
姿はともかく、数千年の昔から存在するような奴らを若いとは言えない。そして俺は外見より中身を重視する。
俺から言わせて貰えば、こいつは明らかに落第点だ。
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