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くだらない事を考えている間にベリアルは羽根を一打ちして上空へと飛び上がった。
4本の手を大きく広げ、正面に巨大な黒い五芒星の魔法陣を展開する。
「深淵の黒、全てを飲み込む地獄の炎よ。顕現し我が敵を灰燼に帰せ!!」
魔法陣から黒い火球の雨が降り注ぐ。
俺は後方へ下がり、風の障壁を張ってやり過ごしたが、宙に浮かぶベリアルに罵詈雑言を浴びせていたアリスは炎の奔流に飲み込まれた。
(あーあ、これは死んだな)
俺は心中で呟いた。
砂糖菓子を崩すように堅固な石造りの砦が階下までぶち抜かれる。
立ち上る粉塵と崩れた瓦礫の中にアリスの姿はなかった。
俺は思わずため息をつく。
そして、騒ぎを聞きつけて来た守備隊長に告げた。
「死にたくなかったら早急に砦の全防御機構を稼動させろ」
彼の行動は迅速だった。無駄に理由を問わずに通信機で部下に指示を出し、自身も作業に加わるために走り去った。
良い人材だ、今度昇進させてやろう。
宙に浮かぶベリアルは、自らの攻撃の跡を眺め、笑い声をあげる。
「はははははは!! まさかこの程度とはな。これで俺は最高位の十二人に……」
「なーに勘違いしてるのかしら?」
背後から聞こえてきた女の声に、ベリアルは驚いて振り返る。
「なっ!! 確かに直撃したはず!?」
「ええ、ちゃんと当たったわよ。ほら」
闇の炎に呑まれたはずのアリスは不機嫌そうに右手を前に出す。
黒いドレスの袖はほんの僅か焦げていた。注視しなければ気づかない程だったが。
「それと単なる力だけじゃあ私達と同列にはなれない」
白面に嘲笑を浮かべるアリス。
「与えられた役目を果たし、世界を導くのが私達魔聖十二天。亡き“彼”との約束を守り続ける者よ」
嘲笑に僅かの寂しさがよぎった。
「どういう意味だ」
「あなたが知る必要はない。お気に入りのドレスを汚してこの私をババア呼ばわりした罰を受けなさいっ!!」
アリスの姿が消える。ベリアルが気づく間もなく、懐に入っていたアリスは腹に正拳突きを叩き込んだ。
魔法でも何でもないただの拳を受け、ベリアルの巨躯が流星のように飛ぶ。天ではなく地に、音速の数倍の速度で魔精の軍団に着弾した。
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