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雲一つない青空に、小鳥たちのさえずりがこだまする澄んだ昼下がりのこと、豊かな草木が広がる小高い丘の上、アリスは姉さまたちに連れられ散歩をしていた。
丘の上にそびえ立つ一本の大きな木の下の影、三人のうち一人、ロリーナだけは衣服が汚れるのも構わずその場に腰掛けた。
「少しは待ちなさいリーナ、すぐにシートを敷くから」
「いいのよ、服は多少汚れてもその機能を著しく失うことはないのだから。
そもそも服なんて保温効果と防御作用、現在に至っては服飾の効果を前提に作られたもの。
私は着飾る趣味はないし、ここには体に害を及ぼすようなものもない完全な原っぱ。
日差しもこの上なく良好な今、このくらいのことで意味をなくすようなものなら最初から人類は必要としないわ。
違う、姉さん?」
「もう……またそんな難しい言い方して煙に巻こうとするんだから。
用意ができたらみんなで食事するんだから、あんまり汚れないようにしなさい。
敷き終わったらちゃんとシートに移るのよ?」
「はいはい分かったわよ、姉さん。
私も食事にありつけないのだけは御免こうむりたいわ。
ほらアリス、あなたも姉さんの邪魔にならないようこっちにいらっしゃい」
アリスには二人の姉がいた。
長女のエディスはその長い金髪を真っ直ぐにおろし、誰が見てもそこに優しさを感じるほど、いつも穏やかなほほ笑みを妹たちに向けている。
年の頃は十九、しかしその面倒見のよさと落ち着いた様子から、二十歳以上に見られてしまうこともしばしば。
今は不在の母に変わり、家庭の仕事を率先して行ってきたエディスは、学校も早い時期に中退し、今では家庭を支えることに専念している。
まだ幼かった二人の妹を守るためには、やむを得ない選択だったのだ。
しかしそれが間違いだとエディスは思っていなかった。
人にはそれぞれ出来ること、やるべきことが存在する。
父が家と家族を支えるために一生懸命働いているならば、母が不在の今、その家庭を維持するのは長女である自分の役目である。
そして、次女のロリーナには自分にはない勉学の才があり、末子のアリスには無限に広がりうる未来がある。
家族の笑顔と日々の幸せ、今以上の幸せを望むなんてエディスにはとても考えられなかった。
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