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ロリーナは幼い頃から賢い少女で、誰よりも勉強熱心だった。
始まりはなんだったか、そう、それはロリーナがわずか六歳の頃、父親の書斎で悪戯半分に書棚を漁っていた事から始まった。
それは一冊の何気ない本、しかしそれはこの年の少女が興味を示すものとしては常識を逸脱していた。
父は学者であり、その上教育者の身だった。
その関係上あらゆる関係の学術書が書斎におかれていた。
古代哲学者の思想書からとある数学者の書いた数式の証明など、それらは大人でも読むのを躊躇いたくなるほど、難解で頭をひねらせてしまうようなものがほとんど。
それをロリーナは、両親の目を盗んでは書斎の中に忍び込み、数冊の本を拝借しては自分の部屋に持ち込み、暇な時間を見つけては読みふけっていた。
そのような行動をロリーナが始めて数日、父親のほうも本が減っていることには気づいていたが、如何せんそんなものを持ち出すような人物にどうしても心当たりがないのだ。
泥棒にしたってもっと金目のものは他にあるし、妻がこのような本を読むとは思えない。
まして幼い娘たちなど考えにも及ばない。
父は、きっとどこかに持っていってそのまま忘れてきてしまったのだろうと納得していた。
そんなある日だった。
学生に提出された論文を家に持ち帰り、それに目を通していたときのことである。
いつの間にやってきていたのか、ロリーナが椅子の後ろから身を乗り出すように、その論文を食い入るように見ているではないか。
「はは、リーナが見ておもしろいようなものじゃないよ。
いい子だから、少しだけママのところに行っていてくれないかな?
パパはこの残ったお仕事を終わらせて、それからだったらリーナの相手を……」
「ねえ、パパ。ここの文、少しおかしくないかな?」
「え……?」
ロリーナの指摘した一節、それは孔子が説いた一つの言葉だった。
「ここは確か子、曰く……」
娘の語りだす言葉に父は唖然とした。
それは一字一句間違いなく、孔子の言葉を再現していたからだ。
その上その少女はどこから覚えてきたのか、その言葉をさらに中国語でそらんじ始めたのだ。
さすがにイントネーションなどは曖昧なものではあったが、そんなものが全く気にならないほどに、父親の驚きようは凄まじかった。
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