第十三話

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  「アキ様……」 その無表情な少年は、上司の名をつぶやく。 返事が帰ってくるはずはない。 彼女はいつでもそうだった。 自由奔放、天真爛漫。 そんな彼女だったから、自分はついてきたのかもしれない。 「アルノー。おまえはどうするんだ?」 アスカはいまだ仲間としての視線をアルノーへと送る。 事実、アクトゥスのいなくなってからのアルノーは、牙の抜けた虎のように大人しかった。 「僕は……」 口ごもる。 自分は何がしたい? いつも彼女が指示をくれた。 自分は彼女の人形。 それでよかった。 だが、もう彼女の視線は自分に向いてはいない。 指示をくれない、遊んではくれない。 「そっとしとくか」 リオンがつぶやく。 アルノーはそれを聞いて、カッと目を見開いた。 リオン・レインド。 彼さえいなくなれば、また彼女の瞳には自分が映るのではないか。 そんなふうに考える。 だが、勝てるはずもない。 先の殺気は、形容できないほどの恐怖を与えてきたから。 アルノーはもう一度ため息をつき、空を仰いだ。 そして、目を疑う。 空が、燃えている。 いや、燃えているものが空にある。 あれは―― 「アキ様!」
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