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◆
(……残念)
アクトゥスは小さく息を吐いた。その吐息は白く染まり、蒸発していく。
あたりを見渡した。樹海のはずだった。今はその面影など微塵もない。そこにあるのは、氷塊となった樹木のみ。
そして、
(あたしも終わり……かな)
自身の右腕を摩る。そこにはもう動くことのないポンコツが繋がっている。
魔力の差だった。どうやら派生である終わりのゼロの力は元々始まりのゼロより高いらしい。氷が、解かせないのだ。それは単に自身の魔力の低下も助長しているのだが。
とにかく、窮地。
追い詰められることなど、初めてだ。絶大な力で蹂躙してきた彼女にとって、相手から逃げ回るなんて、羞恥に外ならない。しかしそれをしてしまうのは、偏に死にたくないから。
(あたしも人の子だったのね、なーんて)
感傷に浸るなんて、らしきない。相手が見つける前に手を打っておかなければ。むざむざ殺されるなんて、有り得ない。
「どこよー。しんじゃったの?」
幸い相手は油断しきっている。位置関係は簡単に見切った。問題は、どう詰めるか。
認めたくないが、自分の炎は相手には通用しない。相性の問題もある。しかもそろそろ風前の灯状態。ため息も出て来るものだ。
「……でてこないんなら、ぜんぶこおらせるよ」
静かな殺気を感じ、アクトゥスは苦笑した。なんて、馬鹿みたいな力。今まで自分と戦った相手も同じ風に感じていたのだろうか。
まぁ、どうでもいいけど。
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