第一話

2/7
前へ
/288ページ
次へ
  今度の場所は打って変わっての、小さな部屋。 そこにあるこれまた小さな簡易ベットに少年、リオンは横たわっていた。 「……」 リオンは自分の右手を眼前にかざしてみた。 なんのこともない、人の手である。 しかし、少し魔力というか、力を加えてみると、その姿は揺らぎだした。 全てを飲み込む、漆黒の闇に。 「入りますよ」 その声でリオンは闇を引っ込めた。 どうやら間に合ったらしく、扉を開けて入ってきた人物は笑みを崩してはいなかった。 「なんだい?」 リオンは無礼を避けるため、ベットから立ち上がり、入ってきた中年の男に近づいていった。 この男、今リオンが泊まっている宿屋の主人である。 わざわざそんな人物が客の元にやってくるなんてのは、十中八九、伝言だ。 「はい。エーシェという方からなんですが、至急戻れ、だそうです」 ビンゴ。 「はぁ」 リオンはため息をついた。 なんて人使いの荒い人なんだろうか。 慣れろといったって慣れられるものでもない。 仕方がないので、宿屋の主人にそのまま泊まってもいないのに代金を払い、リオンは宿屋を後にした。
/288ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9215人が本棚に入れています
本棚に追加