スクラップブック

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 【指輪】  「今度は指輪か……」  やれやれと大きく息をついた。指輪を手にしている。  「………………」  遠くを見つめて呟く。  「悪いけど、それについては話せることがないな。もう要らないものだよ」  「要らないもの?」  「僕自身、存在すら忘れていた。あとで捨てておこう。拾ってくれてありがとう」  後日――。  「この前捨てるって言ったのに、まだあっただって……?」  怪訝そうな彼女から受け取ろうと手を出す。  「…………貸して。……………………  おかしいね。確かに捨てたと思ったんだけど」  「じゃあこれは何?」  「やっぱり、指輪にはなにかが宿るのかもしれないな。  ふふ、怖い、怖い」  「ホントにそれ……捨てたの?」  「もちろん。そう言っただろう?」  「ふに落ちないな……」  「指輪と云えば、君はいつも、左手の小指に可愛いピンキーリングをしているね」  「お姉ちゃんとお揃い……」  「へええ。仲良しのお姉さんとお揃いの指輪なのかい?」  「誕生石をあしらってあるんだ」  「なるほど。素敵だね。僕もいつか、君にダイヤの指輪を贈れる日がくるといいのだけれど。ふふふ」  僕の笑顔に恥ずかしいのか頬を染める。  「さて……と。その指輪は、お払いでもして処分してもらうよ。貸して」
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