保健室の眠り姫

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 先輩に連れられて来た部屋は部室では無く、正確には『同好会室』だった。ドアの小窓には『ミステリー同好会』と手書きで書かれたポスターが貼ってある。 「入って」 先輩が俺に入室を促してくる。俺は先輩の有無を言わせないかの様な絶対的な口調に尻込みしつつ同好会室へと入った。嘘をついた事に相当ご立腹の様だ。 「会長、一人連れて来ましたよ」 中にいたのは柔和な笑みを浮かべる男子生徒だった。しかも芸能オーディションも飛び級出来そうなくらい無駄に美形だった。青いネクタイピンで三年生だとわかる。今時高校生では珍しいシルバーフレームの眼鏡を掛け、神経質というよりは繊細な印象を受ける。肉をまともに食えない草食動物みたいだ。 「初めまして、私は一条明日真といいます。明日真で構いませんよ」 随分と丁寧な先輩だった。俺は明日真先輩の礼に合わせて慌てて礼をする。 「久遠響矢です。見学に来ました」 「昼間からご苦労様です。引っ張られて来た……の間違いでは無いですか?」 明日真先輩の指摘に、反応したのは例の先輩だった。ほとんど肉がついていない頬を膨らませていたが、全く可愛く思えなかった。今までの奇行の印象が強すぎる。 「あの、この人は……」 「あぁ……会員の魚住朝海さんです。こう見えて優等生なんですよ?」 「会長……こう見えても、は余計です」 魚住先輩は近くの椅子に座った。昼休憩の始めだというのに同好会室に篭る2人に、少し呆れてしまう。 「…………今、昼休憩ですよね?」 「そうですよ」 俺の質問に答えた明日真先輩は近くの本棚から薄いクリアファイルを取り出した。それから何枚か資料を取り出すとめくって中身を確認する。 「どうして昼休憩にもこの部屋に居るんですか?」 「……それは、この為です」 明日真先輩は取り出した資料を俺に渡して来た。その内容は真面目で人当たりのいい先輩が見せるにはかなり不似合いだった。 『彩園高校七不思議』 冗談にも限度があるでしょう、先輩?
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