保健室の眠り姫

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「久遠くん、ちょっと」 いきなり名前を呼ばれて、俺は振り返った。入り口辺りにいた女子が俺に向かって手招きしている。残念ながら名前は覚えていなかった。ごめん。 「どうした?」 「これ、先輩っぽい人が渡してって言ってた」 俺はその女子の所に行って話を聞くと、無駄にデコレーションされたノートを渡された。『まげぱんだ』とかいうキャラクターのシールまで貼ってある。 「随分可愛らしいノートだな……誰から?」 だいたい予想はついていたが、それでも敢えて聞いてみた。 「先輩みたいだったけど、凄くちっちゃくて細かったよ。小動物みたいで可愛かった!」 「そうか……ありがと」 名前も知らないクラスメートに礼を言って、神田や福美の元には戻らず自分の席に座った。予想通りに魚住先輩だったらしい。ノートを開くと意味のわからない公式が大量に並んでいて、時々証明の文が書かれていた。どうやら数学のノートの様だった。 「…………?」 一瞬意味が解らなかったが、魚住先輩のミスだと悟った。その瞬間、当の本人が慌てて教室に入って来た。 「久遠くん!?」 魚住先輩は入って来るなりいきなり大声で俺を呼んだ。俺が先輩に手を振ると、先輩は気付いてこっちに来る。 「これ、間違えちゃった……ごめんね?」 魚住先輩は手を合わせて頭を下げながら謝ってきた。別に欲しいモノじゃないから、謝られても困る。 「別にいいですけど……今度は何ですか?」 「渡すノート、こっちだったよ」 魚住先輩が俺の手からファンシーなノートを取ると、黒いノートを渡して来た。ゴシック風で髑髏や剣が縁に描かれている。 「色々と書いてあるから見てね」 「これ……何ですか?」 俺の疑問に魚住先輩が顎に手を当てながら考える。一つ一つの動作が芝居がかっている。自然にやれよ。 「この学校の攻略本かな」 随分と変わった答えだった。具体的な様で抽象的だ。 「……そうですか」 「うん、大事にしてね?」 この先輩、相手にすると調子狂う。
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