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結局、安住さんは最後まで仲良さげに女の子たちと駅前の雑踏にまぎれていった。改札で別れたのか、ホームまで一緒に行ったのか、まさか同じ電車に乗ったのか。
それは私の知る所ではないけれど、少しだけ胸が痛む。
「ねえ、イチコちゃん……」
「ん?」
私は自分の胸に生まれた痼りを隠せなくなってきていた。ミーハーなファンが嫌いで、下品でマナーのないファンが嫌いなイチコちゃんに嫌われてしまうかもしれない。それでも私は問いかけずにはいられなかった。
「芸人さんを……好きになったりするのって……おかしいのかな。もっと仲良くなりたいとか、もっと喋ってみたいとか。他のファンの子を見て、羨ましいとか……思うのって、おか……」
「おかしくないよ」
私がまだ言い切らないうちに、イチコちゃんは答えた。真面目な顔をして、私を凝視する。
こんな時にでも、ああ、イチコちゃん真面目な顔もキレイとか思ってしまうんだ、私は。
「おかしくない。おかしくないけど、一回そう言う風な目で見てしまうと、つらくなるだけだよ。この人の笑いが好き、ネタが好き、面白かったって伝えたい。そう思いながらの待ちと、この人のこと一番応援してるのは私、他の子に負けない、この人とつき合えるならつき合いたい、と思いながらする待ちは『仲良く』なりたいのベクトルが違うよ」
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