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「まさか! つき合いたいなんて思って無いよ!」
「じゃあなんで仲良くなりたいの?」
私は言葉に詰まる。
私は、安住さんと、どうなりたい?
さっき見たあの子たちのように、親しく話してみたい。冗談を言い合って、笑いながら会話がしたい。……どうして? どうしてそう思うんだろう。芸人さんなのに、私はただのファンなのに。
「好きだからでしょ?」
至極あたりまえといった感じでイチコちゃんが言う。私ははっとして彼女を見る。
「す、好きって……。好きだけどそういうんじゃなくて……だって……」
うまく自分の気持を説明できずに、まごまごする私にイチコちゃんは、ふっと笑ってベンチから立ち上がり、スカートの皺をパタパタと直した。
「これね、答え出ないんだ。ふふ。私もいっぱい考えたけど。ごめんね、問い詰めるみたいなこと言って。楽しくライブ見てさ、面白かった~って本人たちに言えてさ、向こうがありがとうとか言ってくれて。それでよくない? 今は」
「……うん。それで、いい」
彼女は優しい目をして、次の電車乗ろうか~と乗車位置のラインに向かって歩きだした。私も立ち上り、彼女の隣に並んだ。
伏し目がちな私をちらりと見て「真弓ちゃん可愛いっ」と、ぎゅっと腕をからめられた。
猫のようなくりくりの目で私を上目使いに見る。ふわっと甘い香り。ウフフ、とやたら嬉しそうにしてる彼女を見て、なんだか気持がすとんと落ち着いた。
「お前のほうが可愛いわーーー!」
私は反撃に出た。絡められた腕を振りほどき、イチコちゃんの身体を両腕でがばっと抱き締め、ぎゅうぎゅう締め上げた。
キャーと声を上げてイチコちゃんが身をよじる。
そんな風に矯声を上げてじゃれあってる私たちを、OL風の二人連れが「JKってなんであんなにうざいんだろ」と迷惑そうに通り過ぎた。
うざい上等。JK無敵。
私は彼女らに向かって「うっさいババア!」と吐き捨て、驚いた顔のイチコちゃんの手を取って逃げた。
どきどきしながらも、気分はなんだか爽快だった。
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