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冷泉高校はそこそこ名も知れ、そこそこレベルの高い都会の進学校である。田舎の中学を卒業した小黒には友人はおろか知り合いすらいなかった。
まぁ、元より一人でいる方が性にあっているので全く問題はないが。
体育館でのやたらと長ったらしい式が終われば、教室でホームルーム。今日はそれだけだ。早く帰れる。
とりあえず休み時間に、適当に隣の席のやつとでも仲良くなっておこう。試験前の助っ人は、一人くらいはいた方がいい。
そんなことを考えていると、閉式を告げるアナウンスが響いた。
凝り固まった背を伸ばそうとした瞬間、ゴトッとマイクが鳴く。
「えー、それではこれから20年振りとなります本校第8代目の生徒会役員の任命式に移らせていただきます。」
ざわざわと場内がどよめく。
そりゃそうだ。
生徒会役員なんてのは、普通なら選挙とかして選ぶものであって…って、違う、いや違わないが、そうじゃなくて、今、何て言った…?
20年振り、だと?
「それではまずは、会長補佐から…呼ばれた生徒は速やかにステージに上がるように。…寺西小黒!」
呼ばれてからワンテンポ遅れて立ち上がる。
…だめだ、思考回路がついていかない。
のろのろと壇上に上がるが、まるで夢うつつだった。
20年って、お前ら、その間どうしてたんだ…
意味がわからん。
これが家業だなんて、全く誇りに思えなかった。
大きな拍手の音で我に返ると、隣に、というか右斜め下に、銀髪が立っていた。
銀髪の名前が紹介された直後らしい。が、司会は次の名前を呼ぶ気配はなく、式は次の段階へと進んでいく。
つまり、壇上には2人だけ。
自分が会長補佐である以上、隣にいるのが会長であることはほぼ確実だった。
小黒の視線に気づいたのか、銀髪が顔をあげる。女だった。
「…お前が惣元(そうげん)の孫か。」
女は不機嫌そうな顔で言った。
惣元とは、小黒の祖父、寺西惣元のことに違いない。そんな妙な名前を、祖父以外できいたことはなかった。
「…使えなさそうだな」
「え?今なんて…」
「なんでもない、気にするな。木ノ白ねく(このしろ ねく)だ、よろしくな『会長補佐』。」
「お、おぉ……よろしく。」
鳴り続ける拍手の中、女の名前と最後に付け足した「変な名前だな」という呟きだけなんとかききとると、促されるままに任命状を受け取りステージを降りた。
お前にだけは言われたくない、と内心で悪態をつきながら。
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