葵の事情

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コンコン 部屋で、準備をしているとノックがした。 「開いてるよ。どうぞ」 準備の手を止めることなく、僕は言った。 ガチャ 「葵。準備進んでる?」 僕とよく似た、でも少し高めな心地いいアルトの声。 翠だ。 「翠!!」 顔を勢いよくあげて、思わず飛び付く。 「翠~~~。準備ならあとちょっとだよ! あぁ。翠にしばらく会えなくなるなんて!僕、耐えられるか分かんない!!」 翠の頭に頬をスリスリしながら僕は嘆く。 なんかもう、ほんとに泣きそう。 あの"事"があってから、僕は1日のほとんどを翠と過ごした。 あ、翠が学校行ってる間は別々だったけどね? 「葵。あんまり騒ぐと体に障る……準備手伝いに来たから。」 淡々とした声。 ガラス玉の様な、ただ周りを映す役割だけを果たす瞳。 人形の方がまだ表情があるんじゃないかと思わせる程の無表情。 僕の為にそうなってしまったのだと思うと、心にちくんと痛みがはしる。 僕の“所為”と思わないでいるのは、 翠はきっとそんな風に僕が思うのを望んでないから。 、
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