舞台の幕開け

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「“北郷一刀(ほんごう かずと)”ねぇ」 長い廊下を一人、歩いている少年がいた。 少年の名は、獅靖神吼(しじょう しんく)。 彼を見て、まず最初に目がいくのは銀髪の髪だろう。 銀髪、と言ってもその髪は本物の銀のように輝いているからだ。 しかし、ギラギラと表現するにはそれはあまりに綺麗、いや上品な輝きのそれだった。 そんな彼が今、持っている資料はある男について書かれているものだった。 「しかし、物好きもいたモンだねぇ。ただの学生相手に殺し屋雇うなんざ」 獅靖家は殺しを職業とする一族だった。 どうやら室町時代からずっとそうだったらしい。 今の時代では“ほとんど”殺しの依頼なんて無くなっている。 神吼自身も日常は普通の学生だ。 故に、今回のように依頼が来るのは珍しい。 (しかも来てもだいたい…まあいいか) 今、持っている資料も次のターゲットについて書かれているものだ。 どうやら北郷一刀、と言うらしい。 (どっから見てもただの学生だよな) 「まあそういう物好きもいるってことだ」 突然隣から声をかけられる。 殺しの修業を積んだ神吼でも気配を察知できなかった。 突然現れた人物に神吼は驚いたが声のした方を見て、はあ、と溜め息を漏らす。 彼の名は、神罪獄嵬(かんざい ごくぎ)。 神吼の師匠である。髪は金に染まり、目は紅く、背中には鎌を担いでいる。 「師匠、よくこんな依頼受けましたね」 「クク…」 不適な笑みを浮かべ、神吼を見る。 「面白そうじゃないか」 「………はあ」 毎度の事だが呆れる。 どんなに依頼人が金を出しても、依頼を受けない事もあれば、 人を殺すというのにとてつもなく安い依頼金で受けるときもある。 つまり師匠は 「変人」 「まあそういうな」 獄嵬は肩を竦め、受け流す。 ………まあいっか 「いつ出掛けるんだ?」 「ん?ああ、いや今回はオメェに任せる」 「?珍しい」 自分で面白そうと、言ったのを俺に任せるとは。 資料を渡されたときにまさかとは思ったが。 「とりあえず任せた」 「…了解」
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