予兆

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時は皆が寝静まる夜中。 そこに二人の男女が何かに追われるように走っていた。 「はぁ…はぁ…」 「…大丈夫?」 「はい…大丈夫です…」 男の方は少し余裕そうだが、女の方は息切れをしている。 「もう少しで京を出るよ… 出たら休もう それまでの辛抱だよ、あぐり…」 「愛次郎様…」 女は"あぐり"男は"愛次郎"というらしい。 実はこの二人、駆け落ちの真っ最中なのだ。 もう少しで京を出るところで、二人の前に一人の男が現れる。 「…どこへ行くのだ? こんな夜中に女を連れて…」 愛次郎はあぐりを庇うように前へ出る。 「…あなたこそ何してるんですか? 平間さん」 平間と呼ばれた男は一歩だけ踏み出す。 あぐりは愛次郎の背中で震えていた。 「なに、夜の散歩だ」 「…そうですか なら関係ないですよね そこをどいてください」 愛次郎はキッパリと言うが、平間は笑うばかりだ。 「どいてもいいが…その女を置いてけ」 「…嫌です 置いてくなら死んだ方がマシだ」 「…なら死ね」 ―ザクッ! 「きゃぁぁああ!!!!」 静かな夜に女の声が響き、その後は何も聞こえなくなった。
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