おみのさん―前編―

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千秋がしばらく男を見ていたが、やがて口を開く。 「誰ですか?」 直後、千秋の後ろからこけたような音がした。 「…何をふざけてるんですか?おみのさん」 千秋の冷めた視線を感じながら、おみのは起き上がる。 「ふざけてるのはあんたでしょ!?何んだったのよ!?さっきのは!?」 「ん~…雰囲気的に?ですかね」 千秋の返答に、とうとうおみのがキレる。 「あんた……」 「俺を無視すんな!!甘味屋で会っただろう!」 男が声を荒げる。 千秋はしばらく思案していたが、やがて、 「あぁ、あの時の、『謝る事に対して嫌な思い出がある』人ですか」 と、思い出したように言う。 「って、それどんな人ぉ!?」 「うるさいですねぇ。いちいち野郎の事なんて、覚えてられませんよ」 千秋は笑顔で淡々と述べる。 「俺の名前は中田巻之助だ!」 「はいはい。で?何の用ですか?この前の仕返しですか?手も足も出なかったのに?」 千秋を睨む中田は、 「この前はたまたま一人だったからだ!いくら何でもこの人数に勝てると思ってるのか?それに…」 ニヤリと笑い、おみのを見て、言葉を継ごうする。が、 「おみのさんを人質に?止めた方がいいですよ…こんな狂暴…コホン。この人を甘く見ない方が身のためですよ」 「こら待て、あんた今何を言おうと…?」 おみのが千秋を睨む。
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