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「おみのさん、帰りましょう」
「…えぇ」
千秋の瞳には、すでに憂いはなかった。
二人はその神社を後にした。
「それにしても、凄いですね、おみのさんは。足を正確に狙い、確実に動けなくする!」
千秋は無邪気に笑う。そんな千秋を見て、疑問を口にする。
「…いいの?あの男達、またあんたを狙うかもしれないのに…」
「何ですか?心配してくれてるんですか?」
「違う!どうして自分を狙う奴らを殺さなかったかが疑問なだけよ!」
おみのは声を荒げて、千秋を睨む。
「…人には少なからず大切な人が必ずいるものです。その大切な人が死んだら殺した人を憎むでしょう?」
千秋は遠くを見るように言う。笑顔は絶やさずに。
「人を殺すと、憎しみを生む。その憎しみで人を殺すと、また憎しみを生む…。憎しみの連鎖は止まらないものです。…だったら生まなければいい」
おみのを見て、ニッコリ笑う。
「だから、私は人を殺しません。私情では。」
「…でも…」
おみのが口を開くが、千秋が遮る。
「それにしても、お腹がすきましたねぇ。今日のごはんは何ですかね?」
まるで、これ以上この話はしたくないかのように、話題を変える。
「…相変わらず、食い意地は張ってんのね」
二人は屯所に着くまでたわいのない話で盛り上がっていた。まるで、年頃の娘のように…。
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